キリスト教信者が多い北米では、キリストの生誕を祝うクリスマスは、
年間の最大の行事。
家族・親戚が集まる日本のお正月のような感じ。
10月31日のハロウィーンが過ぎると、町にはクリスマス・ソングが流れだし、
プレゼントのための売り出しが始まる。
「今年は息子が結婚して妻を連れてくるの」
「孫が生まれて初めてのクリスマス、楽しみだわ!」
家族中心のこのクリスマス、家族に恵まれていなかったり家庭に不幸があった人は、居たたまれない気持ちになることも。
仕事関係のリンさん(仮名)は、もうすぐ夫婦で迎える退職を楽しみにしていた。二人とも70歳になったら、仕事を退職して自由に暮らそうと。
ある日、彼女が欠勤していたので理由を尋ねると、
「彼女の夫が急に心臓発作を起こして亡くなったの」
元気で働き者だった夫君の死は、晴天の霹靂だったという。
3週間して仕事に戻ってきたリンさんは、気丈に振る舞っていた。
辛い時期はかえって仕事をして人と関わっていた方が気が紛れるからと。
それでも、巷のクリスマスに向けての喧噪は、やりきれない気持ちになるという。彼女がローストした七面鳥を切り分けていた家の主である夫はもういない。
「I am in mourning for my husband:私は夫の死の喪中です」
そして、彼女のつぶやいた言葉が心に掛かった。
「Believing in love becomes truth: 愛を信じると真になる」
彼女のこの言葉を形にしたくなって、漢字に当て嵌めてみた。
彼女の夫の死を悼む気持ちを象徴的にサポートする方法を考えあぐね、
木の小箱を彼女の追牌の象徴として贈ることにした。
外側をピンクのアクリル絵の具で塗ってみた。
底と蓋の内側は輝くように蛍光のピンクを選んだ。
ここで、表の部分の装飾について考えてみた。
私は素のまま渡そうとしたけれど、彼女の言葉を漢字で綴った時に感動していたので、どれか選んで記そうか?と訊いてみた。
「Loveとういう字を漢字で描いて、赤がいいわ」
このメモリー・ボックスを渡した時、彼女は私をハグしてくれた。
「ありがとう、私の気持ちを分かってくれて。
今の私に必要なのは、追牌すること。でも、開けっ放しにはできない。
仕事をしている時には蓋をして、一人になった時に開けるわ。
夫との想い出の象徴となるものを入れておいて」
言葉では語り尽くせない想いがある。
そんな時、アートは伝えてくれる。
色で、線で、形で、感触で。